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「馬に優しい」乗馬用品とは?動物福祉の視点から見る装具開発の最前線

最終更新日 2025年7月8日 by amcgsr

「馬に優しい」という言葉を耳にしたとき、皆さんはどのようなイメージを抱きますか?
なんとなく、馬への負担が少ないことを意味しているのかな、と感じる方は多いでしょう。
しかし、具体的にどのような状態を指すのか、明確に説明できる方は少ないかもしれません。

実は、この「馬に優しい」という概念の背後には、動物福祉という考え方が深く関わっています。
動物福祉とは、動物が肉体的・精神的に健康で、幸福な状態であることを目指す考え方です。
馬術の世界でも近年、この動物福祉の重要性が認識され、馬具開発にも大きな影響を与え始めています。

私、田中宏一は、大学で畜産学を学び、卒業後は馬具メーカーに勤務。
その後、スポーツ用品メーカーでの広報職を経て、現在はフリーライターとして活動しています。
馬具メーカー時代は、新素材を用いた鞍や馬具の試作、軽量化技術の研究に従事。
現場の声を収集するため、全国の乗馬クラブを巡回していました。
この時の経験から、単なる道具としてではなく、騎乗者と馬の快適さを両立させる乗馬用品の必要性を痛感。
そして、その重要性を世の中に発信したいという思いから、ライターの道へ進んだのです。
本記事では、長年の経験で培ってきた知見を基に、「馬に優しい」乗馬用品について、動物福祉の視点から詳しく解説します。

この記事を読むことで、皆さんは以下の点について新たな気づきを得られるでしょう。

  • 動物福祉の観点から見た「馬に優しい」乗馬用品の定義
  • 最新の素材や設計技術が馬に与える影響
  • 馬と騎乗者のより良いコミュニケーションを実現する装具の役割
  • 馬術界における動物福祉の現状と今後の展望

「馬に優しい」乗馬用品について理解を深めることは、馬と人との関係性をより豊かにし、乗馬というスポーツの持続可能性を高めることにもつながります。
動物福祉に配慮した乗馬用品の重要性を、一緒に考えていきましょう。

馬に優しい乗馬用品の基礎知識

まず、動物福祉の視点から見た「馬に優しい」乗馬用品について、基本的な知識を整理します。
一言で「優しい」と言っても、具体的にどのような点が考慮されているのでしょうか。

動物福祉が求める装具の条件とは

動物福祉の観点から見た場合、馬に優しい乗馬用品には、いくつかの重要な条件が求められます。
第一に、馬の身体に過度な負担をかけない設計であることが不可欠です。
例えば、鞍であれば、馬の背中に均等に圧力が分散される構造が求められます。
特定の部位に圧力が集中すると、馬は痛みや違和感を感じ、パフォーマンスの低下や怪我につながるリスクがあるためです。
また、馬の動きを妨げない柔軟性も重要な要素。
硬すぎる素材や、関節の動きを制限するような設計は、馬の自然な動きを阻害し、ストレスの原因となります。

さらに、素材選びも重要なポイントです。
通気性や吸湿性に優れた素材を使用することで、馬の皮膚を健康に保ち、汗による不快感を軽減できます。
化学物質の使用を抑え、アレルギーのリスクを減らすことも、動物福祉の観点からは重要です。
近年では、環境への負荷が少ないサステナブルな素材への関心も高まっています。

動物福祉が求める装具の条件をまとめると、以下のようになります。

  • 馬の体に負担をかけない設計
    • 圧力の均等な分散
    • 動きを妨げない柔軟性
  • 馬の健康に配慮した素材選び
    • 通気性、吸湿性の良さ
    • 化学物質の使用を抑え、安全性を重視
  • 環境への負荷を考慮した素材の使用

これらの条件を満たすことで、馬はより快適に、そして健康的に運動することができるのです。
つまり、動物福祉に配慮した装具は、馬のパフォーマンス向上にもつながるということですね。

代表的な馬具の役割と進化

ここで、代表的な馬具の役割を簡単に確認しておきましょう。
主な馬具としては、鞍(くら)、手綱(たづな)、ハミ(轡)などが挙げられます。
鞍は、騎乗者が馬の背にまたがるための道具であり、馬の背中を保護する役割も担っています。
手綱は、騎乗者が馬に指示を伝えるための重要なツール。
ハミは、馬の口に装着する金属製の馬具で、手綱と連動して馬の動きを制御します。
これらの馬具は、長い歴史の中で、騎乗者と馬の双方にとってより快適で効率的なものへと進化を遂げてきました。

例えば、鞍は、古代には簡素な布や毛皮を馬の背に敷いただけのものでしたが、時代とともに、木や骨を芯材とした鞍が開発され、さらに現在では、軽量で耐久性に優れた合成素材を用いたものが主流となっています。
鞍の形状も、馬の背中の形状に合わせて立体的に設計されるようになり、フィット感や安定性が向上しています。
また、手綱やハミも、より細やかな指示が伝わるよう、素材や形状に改良が加えられてきました。

近年の馬具の進化における特徴的な傾向として、「マイナーチェンジ」が挙げられます。
これは、一見すると大きな変化はないように見えても、細部にわたる改良を積み重ねることで、馬の快適性やパフォーマンスを大きく向上させるという考え方です。
例えば、鞍の内部構造をわずかに変更することで、圧力分散を改善したり、手綱の素材を変えることで、より繊細な指示を伝えられるようにしたりといった工夫がなされています。

以下は、主な馬具の役割と進化をまとめた表です。

馬具役割主な進化
騎乗者の座席、馬の背中の保護素材の軽量化・高機能化、形状の立体化
手綱馬への指示伝達素材の改良、細かな指示伝達を可能にする工夫
ハミ馬の動きの制御素材や形状の改良、馬の口への負担軽減

なお、様々な乗馬用品を幅広く取り揃えた専門店をお探しの方は、JODHPURS (ジョッパーズ) 乗馬用品・馬具&ライフスタイルをチェックしてみてください。

一見、小さな変化に見えるかもしれませんが、これらの「マイナーチェンジ」の積み重ねが、馬と騎乗者の双方にとって大きな違いを生み出すのです。
これは、長年馬具開発に携わってきた私自身、強く実感していることです。
馬具の進化は、馬と人とのより良い関係性を築くための、たゆまぬ努力の歴史と言えるでしょう。

新素材と設計技術の最前線

馬具の進化を語る上で、新素材と設計技術の発展は欠かせません。
ここでは、それらがどのように「馬に優しい」乗馬用品の開発に貢献しているのか、具体的な事例を交えてご紹介します。

最新テクノロジーがもたらす鞍の軽量化

近年、馬具開発において最も注目されている技術の一つが、鞍の軽量化です。
従来の鞍は、木や金属を主な素材としていたため、重量があり、馬の背中に負担をかける原因となっていました。
しかし、近年では、カーボン素材や合成皮革などの新素材が導入され、鞍の軽量化が大きく進んでいます。

カーボン素材は、軽量でありながら強度と耐久性に優れているため、馬術競技用の鞍に多く用いられています。
ある研究によると、カーボン製の鞍は、従来の木製鞍に比べて約20%の軽量化を実現したとのこと。
この軽量化により、馬の背中への負担が軽減され、より自由な動きが可能となります。
また、合成皮革は、天然皮革に比べて軽量で、メンテナンスも容易なため、初心者向けの鞍にも多く採用されています。

実際に、馬術競技会でこれらの新素材を用いた鞍を使用している騎手からは、「馬の動きが軽やかになった」「疲労が軽減された」といった声が聞かれます。
私も実際に、軽量化された鞍を使用した馬のパフォーマンスを間近で見てきましたが、確かに、以前に比べて馬の動きにキレが増し、疲労の度合いも軽減されているように感じました。

以下は、代表的な素材とその特徴を比較した表です。

素材特徴主な用途
伝統的、強度があるが重い初心者向け、練習用
金属強度が高いが、重量がある競技用の一部
カーボン軽量、高強度、高耐久競技用、上級者向け
合成皮革軽量、メンテナンスが容易初心者向け、練習用

これらの新素材は、馬の負担を軽減するだけでなく、騎乗者の操作性向上にも貢献しています。
鞍が軽くなることで、騎乗者の重心移動がスムーズになり、馬との一体感も高まるのです。
まさに、新素材の導入は、馬と騎乗者の双方にとってメリットのある技術革新と言えるでしょう。

馬具開発の流れ:試作からテストまで

では、実際に「馬に優しい」馬具はどのように開発されているのでしょうか。
ここでは、私がかつて馬具メーカーで働いていた経験を基に、その開発プロセスを詳しく見ていきましょう。

馬具の開発は、まず市場調査から始まります。
どのような馬具が求められているのか、現在の馬具にはどのような問題点があるのかを、騎手や調教師、乗馬クラブのスタッフなどからヒアリングします。
次に、調査結果を基に、新しい馬具のコンセプトを立案。
この段階では、馬の解剖学的な知識や、動物福祉の観点も考慮されます。

コンセプトが決まったら、次は試作品の製作です。
試作品は、実際に馬に装着してテストされます。
このテストでは、馬の動きや反応を観察し、問題点がないかを入念にチェック。
馬の動きを妨げていないか、痛みや違和感を与えていないかなどを、獣医師や専門家と協力しながら評価します。

テストの結果、問題点が見つかった場合は、設計を見直し、改良を加えていきます。
このプロセスを何度も繰り返し、最終的に、馬にとって快適で安全な馬具が完成するのです。

開発プロセスを以下にまとめます。

  1. 市場調査: 騎手や関係者へのヒアリング、市場動向の分析
  2. コンセプト立案: 馬の解剖学、動物福祉を考慮した設計方針の策定
  3. 試作品製作: コンセプトに基づいたプロトタイプの作成
  4. テスト: 実際に馬に装着し、動きや反応を観察・評価
  5. 改良: テスト結果に基づき、設計を見直し、改良を重ねる
  6. 製品化: 最終的な製品を製造し、市場に投入

私が馬具メーカーに勤務していた頃、全国の乗馬クラブを巡回し、多くのユーザーからフィードバックを収集しました。
現場の声を聞くことは、開発において非常に重要です。
例えば、「鞍がずれてしまう」という声があれば、滑りにくい素材に変更したり、鞍の形状を見直したりといった改良につながります。
「手綱が硬くて使いにくい」という声があれば、より柔軟な素材を採用したり、握りやすい形状に設計を変更したりといった工夫が生まれます。

こうしたユーザーフィードバックの活用は、馬具開発において欠かせない要素です。
実際に馬具を使用する人々の意見を取り入れることで、より実用的で、馬と騎乗者の双方にとって快適な馬具を開発することができるのです。

馬と騎乗者のコミュニケーションを高める装具

「馬に優しい」乗馬用品は、馬の身体的な負担を軽減するだけでなく、馬と騎乗者のコミュニケーションをより円滑にする役割も果たします。
ここでは、そのための具体的な工夫について解説します。

馬との対話を支える細やかな工夫

乗馬において、馬と騎乗者は馬具を通じてコミュニケーションをとります。
騎乗者が手綱や脚を使って指示を出し、馬がそれに応えることで、様々な動きを実現するのです。
このコミュニケーションを円滑にするためには、馬具の細部にまで配慮が行き届いていることが重要になります。

例えば、鞍のフィット感は、騎乗者の体重を馬の背中に均等に分散させ、騎乗者のバランスを安定させるために重要です。
鞍が馬の背中にぴったりとフィットしていれば、騎乗者の重心が安定し、馬に正確な指示を伝えやすくなります。
逆に、鞍のフィット感が悪いと、騎乗者のバランスが崩れ、馬に不要な負担をかけてしまうだけでなく、コミュニケーションにも支障をきたします。

手綱やハミも、馬とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。
手綱は、騎乗者が馬に指示を伝えるための主要なツール。
騎乗者は、手綱を引いたり緩めたりすることで、馬に前進、停止、方向転換などの指示を出します。
ハミは、馬の口に装着する金属製の馬具で、手綱と連動して馬の動きを制御します。
手綱やハミの素材や形状は、馬への指示の伝わり方に大きな影響を与えます。
例えば、柔らかい素材の手綱は、馬の口への当たりが優しく、繊細な指示を伝えやすいです。
また、ハミの形状も、馬の口の形や感受性に合わせて選ぶことが重要です。

馬との対話を支える細やかな工夫を、以下にまとめます。

→ 鞍のフィット感:騎乗者の体重を均等に分散し、バランスを安定させる
→ 手綱:素材や形状を工夫し、繊細な指示を伝えやすくする
→ ハミ:馬の口の形や感受性に合わせた形状を選択する

これらの工夫により、騎乗者はより正確に、そして優しく馬に指示を伝えることができ、馬も騎乗者の意図を理解しやすくなります。
つまり、馬具の細部にまで配慮することは、馬と騎乗者のより良いコミュニケーションにつながるのです。

安全性と快適性の両立を実現するには

「馬に優しい」乗馬用品は、馬の快適性だけでなく、安全性にも配慮して設計されています。
乗馬は、馬という大きな動物と共に行うスポーツであるため、常に事故のリスクが伴います。
しかし、適切な馬具を使用することで、そのリスクを最小限に抑えることが可能です。

例えば、鞍には、騎乗者の落下を防ぐための安全機能が備わっています。
鐙(あぶみ)には、足が挟まった際に外れるような仕組みが施されているものもあります。
また、ヘルメットやプロテクターなどの保護具も、騎乗者の安全を守るために重要です。

安全性と快適性を両立させるためには、馬具が騎乗者と馬の双方をサポートする役割を果たすことが重要です。
騎乗者が安定した姿勢を保てるようにサポートすることで、馬への負担を軽減し、事故のリスクを減らすことができます。
また、馬が快適に動けるようにサポートすることで、馬のストレスを軽減し、予期せぬ行動を防ぐことにもつながります。

安全性と快適性の両立のために必要な配慮を以下にまとめます。

  1. 騎乗者の安全確保: 落下防止機能、保護具の着用
  2. 馬の快適性: ストレス軽減、自由な動きの確保
  3. 双方のサポート: 安定した騎乗姿勢、馬への負担軽減

つまり、「馬に優しい」乗馬用品は、単に馬の快適性を追求するだけでなく、騎乗者の安全性にも配慮し、馬と騎乗者の双方をサポートする役割を果たすことで、より安全で快適な乗馬体験を実現するのです。

動物福祉とスポーツの共存

ここまで、「馬に優しい」乗馬用品について、主に技術的な側面から解説してきました。
しかし、動物福祉の考え方は、単に馬具の改良にとどまらず、乗馬というスポーツ全体のあり方にも影響を与えつつあります。
ここでは、動物福祉とスポーツの共存という、より大きな視点から、乗馬の現状と未来について考えてみましょう。

海外のガイドラインや事例に学ぶ

動物福祉の考え方は、ヨーロッパを中心に発展してきました。
乗馬文化の長い歴史を持つヨーロッパでは、馬の福祉に関するガイドラインが整備され、馬術競技のルールにも反映されています。
例えば、国際馬術連盟(FEI)は、馬の福祉に関する詳細な規定を設けており、競技会では獣医師による馬の健康チェックが義務付けられています。
また、過度なハミの使用や、馬を疲弊させるような過酷な調教は禁止されています。

近年、馬具開発においても、動物福祉の観点を取り入れた製品が注目を集めています。
例えば、ヨーロッパのあるメーカーは、馬の背中への圧力を測定するセンサーを内蔵した鞍を開発しました。
この鞍を使用することで、馬の背中にかかる圧力をリアルタイムでモニタリングし、過度な圧力がかかっていないかを確認することができます。
また、馬の動きを妨げないように設計された、柔軟性の高い鞍も開発されています。

ヨーロッパでは、馬具メーカーだけでなく、乗馬クラブや競技団体も、動物福祉の向上に積極的に取り組んでいます。
例えば、オランダのある乗馬クラブでは、馬が自由に動き回れる広い放牧場を設け、馬のストレス軽減に努めています。
また、競技会においても、馬の福祉を最優先に考えた運営が行われています。

ヨーロッパにおける動物福祉への取り組みを以下にまとめます。

  • 国際馬術連盟(FEI)による馬の福祉規定の整備
  • 馬具開発における動物福祉視点の導入
    • 圧力センサー内蔵の鞍
    • 柔軟性の高い鞍
  • 乗馬クラブや競技団体による積極的な取り組み
    • 広い放牧場の設置
    • 競技会の運営における馬の福祉優先

これらの事例から、ヨーロッパでは、動物福祉の考え方が乗馬文化に深く浸透していることがわかります。
そして、その考え方は、馬具開発、乗馬クラブの運営、競技会のあり方など、乗馬に関わるあらゆる側面に影響を与えているのです。

日本国内の取り組みとこれから

一方、日本国内における動物福祉への取り組みは、まだ始まったばかりと言えるでしょう。
近年、動物愛護法の改正などにより、動物福祉への関心は高まりつつありますが、乗馬の世界においては、まだ十分に浸透しているとは言えません。

しかし、希望もあります。
例えば、日本中央競馬会(JRA)は、競走馬の福祉向上に取り組んでいます。
引退した競走馬のセカンドキャリア支援や、馬の福祉に関する調査研究などを行っています。
また、一部の乗馬クラブでは、馬の健康管理や飼育環境の改善に積極的に取り組むところも出てきています。

日本馬術連盟も、馬の福祉に関するガイドラインを策定し、競技会における馬の健康チェックを強化するなどの取り組みを始めています。
しかし、これらの取り組みはまだ一部にとどまっており、日本全体で見れば、動物福祉への意識はまだ低いと言わざるを得ません。

動物福祉の考え方を日本の乗馬文化に浸透させていくためには、以下のような取り組みが必要でしょう。

  • 競技団体による、より具体的なガイドラインの策定と普及
  • 乗馬クラブにおける、馬の飼育環境の改善
  • 騎手や調教師への、動物福祉に関する教育の実施
  • 一般層への、動物福祉に関する啓発活動

これらの取り組みを通じて、馬と人とのより良い関係性を築いていくことが重要です。
そして、そのためには、私たち一人ひとりが、動物福祉について学び、意識を高めていくことが不可欠です。

動物福祉とスポーツは、決して相反するものではありません。
むしろ、動物福祉の考え方を取り入れることで、スポーツはより持続可能なものとなり、馬と人との関係性もより豊かになるのです。

田中宏一が提言する「未来の馬具」

ここまで、動物福祉の視点から見た「馬に優しい」乗馬用品について、現状と課題を解説してきました。
最後に、私、田中宏一が考える「未来の馬具」について、提言させていただきます。

取材経験を活かしたリアルなユーザー目線

私は、馬具メーカー勤務時代から現在に至るまで、全国各地の乗馬クラブや競技会を訪れ、多くの騎手や調教師、馬主の方々からお話を伺ってきました。
その中で、馬具に関する様々な要望や課題を耳にしてきました。

例えば、「もっと馬との一体感を感じられる鞍が欲しい」「長時間の騎乗でも疲れない手綱が欲しい」「馬の口に優しいハミが欲しい」といった声です。
これらの声は、単に「より良い馬具が欲しい」というだけでなく、「馬ともっとうまくコミュニケーションを取りたい」「馬にもっと快適に過ごしてほしい」という、馬への深い愛情から生まれているのだと感じています。

私は、これらの声を「未来の馬具」開発に活かすことが重要だと考えています。
メーカーは、ともすれば、技術的な優位性や新素材の導入などに注力しがちですが、最も大切なのは、ユーザーである騎手と馬のニーズに応えることです。
そのためには、ユーザーの声を丁寧に拾い上げ、それを製品開発に反映させていくことが不可欠です。

私が考える「未来の馬具」の第一の条件は、ユーザー目線であることです。
それは、単に使いやすいだけでなく、馬と騎乗者の双方にとって、より快適で、より安全で、よりコミュニケーションを円滑にするものでなければなりません。

さらなる革新に必要な視点

「未来の馬具」を実現するためには、馬具業界だけでなく、異業種とのコラボレーションも重要です。
例えば、スポーツウェア業界で培われた素材開発技術や、人間工学に基づく設計技術を馬具開発に応用することで、これまで以上に快適で機能的な馬具を生み出せる可能性があります。

また、近年注目されているAIやIoT技術の活用も、「未来の馬具」開発において大きな可能性を秘めています。
例えば、センサーを内蔵した鞍を開発し、馬の背中にかかる圧力や騎乗者の重心移動をリアルタイムでモニタリングすることで、より適切な騎乗姿勢を指導したり、馬の健康状態を把握したりすることが可能になります。
さらに、ハミにセンサーを取り付け、馬の口内の状態をモニタリングすることで、ハミによる痛みや違和感を早期に発見することもできるかもしれません。

異業種コラボレーションと先端技術導入の可能性をまとめます。

  • 異業種コラボレーション
    • スポーツウェア業界:素材開発技術、人間工学の応用
    • 自動車業界:安全技術、衝撃吸収技術の応用
  • AI・IoT技術の活用
    • センサー内蔵鞍:圧力、重心移動のモニタリング
    • センサー付きハミ:口内状態のモニタリング
    • データ分析による、馬の健康管理やトレーニングの最適化

これらの技術革新は、馬具の機能性を飛躍的に向上させるだけでなく、馬の健康管理やトレーニング方法にも大きな変革をもたらす可能性があります。
しかし、技術はあくまでも手段であり、目的ではありません。
最も大切なのは、「馬と人とのより良い関係性を築く」という目的を見失わないことです。
「未来の馬具」は、そのための「架け橋」となるべきです。

私は、これからも馬具の可能性を追求し、馬と人とのより幸せな未来を創造するために、ライターとして情報発信を続けていきたいと考えています。

まとめ

本記事では、「馬に優しい」乗馬用品について、動物福祉の視点から詳しく解説してきました。
「馬に優しい」とは、単に馬の身体的な負担を軽減するだけでなく、馬の健康と幸福を総合的に考え、馬と騎乗者のより良いコミュニケーションを実現することです。
そして、その実現のためには、馬具の素材や設計技術の革新だけでなく、乗馬に関わるすべての人々の意識改革が必要となります。

以下、記事の要点を振り返ってみましょう。

  • 「馬に優しい」乗馬用品は、動物福祉の考え方に基づき、馬の身体的・精神的な健康と幸福を重視して開発されている。
  • 新素材や設計技術の導入により、鞍の軽量化や圧力分散、通気性の向上など、馬の負担軽減が実現されている。
  • 馬具の細部にまで配慮することで、馬と騎乗者のコミュニケーションが円滑になり、安全性も向上する。
  • ヨーロッパでは、動物福祉の考え方が乗馬文化に深く浸透し、馬具開発、乗馬クラブ運営、競技会のあり方に影響を与えている。
  • 日本では、動物福祉への取り組みはまだ始まったばかりだが、競技団体や一部の乗馬クラブで意識改革が進みつつある。
  • 「未来の馬具」は、ユーザー目線を重視し、異業種コラボレーションやAI・IoT技術の活用によって、さらなる革新が期待される。

これらの要点を踏まえ、田中宏一が考える「馬に優しい」乗馬用品が拓く、人と馬の新たな関係性とは、以下のようなものです。

馬に優しい乗馬用品の普及は、馬と人との間に、より深い信頼関係を築く礎となるでしょう。
馬の痛みやストレスを軽減し、その能力を最大限に引き出すことで、乗馬はより安全で、より楽しいスポーツへと進化していくはずです。
そして、それは馬と人との共生社会の実現に向けた、大きな一歩となるに違いありません。

動物福祉の観点から考える装具開発の意義と今後の可能性は、非常に大きいと言えます。
馬具メーカー、騎手、調教師、乗馬クラブ、そして私たち一人ひとりが、動物福祉について学び、意識を高めていくことで、馬と人とのより幸せな未来を創造することができるのです。

最後に、読者の皆さんへのアクションステップを提示します。
まずは、この記事をきっかけに、動物福祉について関心を持ち、身近なところから考えてみてください。
例えば、乗馬クラブを訪れた際には、馬の様子を観察し、馬が快適に過ごせているかどうかを考えてみましょう。
また、馬具を購入する際には、その馬具がどのように作られているのか、馬の健康や安全に配慮されているかどうかを確認してみてください。

小さな一歩かもしれませんが、その積み重ねが、大きな変化を生み出すと私は信じています。
馬と人とのより良い未来のために、一緒に考えていきましょう。